「 Inner Voices / 高田ひろ子(p) Trio 」
高田ひろ子(p) 安ヵ川大樹(b) 橋本 学(ds)
「風景を描くように、物語を綴るように、音で語りかけてくれるピアニスト高田ひろ子。 ファン待望のトリオアルバム第二弾!」
DMCD-14 税抜2381円+税
試聴音源
1. 桜、散る Falling Cherry Blossoms ♪
2. I Remember You(Victor Schertzinger)♪
3. Late Summer♪
4. I Loves You Porgy(George Gershwin)♪
5. But Not For Me(George Gershwin)♪
6. 青い空 白い雲 Aoi-sora,Shiroi-kumo ♪
7. つばめ Swallow♪
8. 遠い道程 A Long Way to Go ♪
9. Inner Voices♪
All Songs Composed by Hiroko Takada (except 2,4,5)
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ライナーノーツ
高田ひろ子を知ったのはいつのことだったろう、と記憶をめぐらしてみた。きっかけは1995年『ジャズ色 歌謡浪漫』を発表した澄淳子だった。澄淳子を当時の吉祥寺のジャズ喫茶マスター連中と一緒に推していて、その関係で出会った。澄淳子は何かと高田ひろ子とライブを共にすることも多かった。そんな縁で知った。1998年彼女はドイツのTraurige Tropenから『A Song For Someone』をリリースした。これは、テナー、ソプラノ奏者のアンディ・ベヴァンをフィーチャーしたカルテット作品でその美しさに心底心酔してしまった。2000年頃、ディスクユニオンで「90年代名盤50選(輸入盤)」という企画を実施した。ジャズ評論家、ジャズ関係者10人に協力を仰ぎ、各自の趣味趣向を反映した50枚を選出し、オリジナルのライナーノーツを作成して配布した。ボクは『A Song For Someone』を選びライナーを書いた。因みに、『ENRICO PIERANUNZI / Seaward』、『DON MENZA / Bilein』、『EUGENE MASLOV / When I Need To Smile』なども選んだ。この陣容をみて「なるほどねぇ、そういう時代背景ね」と理解を得られる人もいるだろう。『A Song For Someone』は、そういう時代の中で制作されて、ボクの琴線に触れた。「これを時代の中に埋もれさすわけにはいかない、微力だが頑張りたい」と思った。とにかく高田ひろ子の曲の美しさにほれた。そしてアンディのソプラノの美しさ。この作品を買った人は、今でも『名盤』だなと愛聴してくれていると思う。
2002年には、澄淳子の『ぎんぎん・ぎらぎら』に参加。日本の童謡をジャズにアレンジしたもので、ここでの高田ひろ子も輝いていた。当時澄~高田のふたりで作成したデモテープCDを聴いたことがある。澄淳子の奔放で異彩放つジャズワールドを果敢に盛り上げる高田ひろ子のピアノが印象的であった。その後、2003年にもアンディをフィーチャーした作品『エルマ』(ローヴィング・スピリッツ)発表。この時のベースは思えば安ヵ川大樹である。
あ、そうそう。2004年には、ヴォーカルの清水翠とデュオ作品を作っている。『清水翠 / A Time For Love』(NYX Studio)というもので、高田ひろ子の歌伴のうまさも感じられた一枚だった。確かモーション・ブルーのライブ音源だ。
そうこうしているうちに安ヵ川大樹は自分のレーベルを立ち上げることになる。その第一弾が『高田ひろ子 / For A New Day』なのであった。安ヵ川は、第一弾は高田ひろ子トリオで行こう!と決めていたのではないか、と思う。というかボクは、そうあって欲しいと願っていた。高田ひろ子のカルテット・ライブ(安ヵ川がベース)が2001年9月11日横浜ドルフィーであった。あの世界が震撼した惨劇当日ということもあり、忘れられないライブでもあり、ボクの脳裏に安ヵ川~高田ラインというのが完全に刻み込まれたのだった。
さて、そういうことで高田ひろ子の作品を振り返ってみたわけだが、今作品がダイキムジカ第14弾作品ということになる、高田ひろ子トリオである。メンバーは前回と同じでドラムスは橋本学である。橋本学は、でしゃばることなくリズムに徹する。かつて50年代にアメリカで活躍した名ドラマー、ディブ・ベイリーのように徹底的に裏で支える姿勢が好ましく思えた。
曲は、「I Remember You」、「I Love You Porgy」、「But Not For Me」のスタンダード曲と高田ひろ子のオリジナル曲だ。このオリジナル曲がクセになる代物なのだ。やっさん(安ヵ川の大学時代の愛称)からライナーの依頼を受けてからというもの、何度も何度も聴いていて、アーティスト以外では「日本で一番このCDを聴いているもんね、オレ」と言い切ってもいいと思うが、そのオリジナル曲のメロディー、テンポ、ちょっとしたフレーズの中でのタッチの鋭さ、繊細さに、いちいちハッとさせられ「参りました」とCDに向かい敬意を払い続けているのだ。
高田ひろ子ワールド。それは、ヨーロッパのジャズを学び、色々なセッションをこなし、肉付けしていったら、どこにも属さない彼女だけの世界みたいなものが築きあげられた。そんな感じだ。どこの誰でもない彼女だけの美学。
かつでボクは、『A Song For Someone』の自家製ライナーで、「今度はきっとピアノ・トリオ作品で待っています。でもそんなの高田さんは嫌いかもね」と書いた。その時なぜそのように、「嫌いかもね」と書いたのか憶えていない。しかし結局11年経過して、このような唯一無二のピアノ・トリオにめぐり合えたのは紛れもない事実であって、こんな邂逅も、やはり「ジャズの醍醐味」なんだろうなと思っているわけなのだ。
(JAZZPERSPECTIVE 編集長 山本隆)
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