「 Home Songs / Jun Furuya(p) Trio 」
古谷淳(p) 中林薫平(b) 柴田亮(ds)
ゲスト: 黒田卓也(tp/flh) 2,4&7
吉本章紘(ts) 2,4&7
「揺るぎない自信と飽くなき表現欲!
新進気鋭 黒田卓也(tp/flh) 吉本章紘(ts)をゲストに迎え さらに進化した古谷淳トリオ セカンド・アルバム。」
DMCD-13 税抜2381円+税
試聴音源
1. True Changes♪
2. Marginal Mind ♪
3. Traveller’s Waltz♪
4. Home♪
5. Topology ♪
6. Mother, Son and the Holy Ghost ♪
7. The Cafe♪
8. The Man I Love♪
All Songs Composed by Jun Furuya (except 8)
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ライナーノーツ
『Home Songs』とはなんていいタイトルなんだろう。
古谷淳のライブで「次回作のタイトルが決まった」という話を聞いた時にとっさにそう思った。
古谷淳らしいなと。今、作品として完成したものを聞いて、改めてその思いを強くした。大体ジャズのアルバムは昔からタイトルが素っ気ないものが多い。タイトルはアルバム・コンセプトを表す看板であり、ジャケットと同様にアルバム内容を視覚的に表現する大事な要素である。
そこで『Home Songs』、うむ、いいではないか。
2009年リリースのデビューアルバム『EXPRIMO』に続く2作目の本作は、 前作から引き続き鉄壁のコンビネーションを誇る中林薫平と柴田亮のレギュラー・トリオに、3曲でトランペットとテナーの2管を加えた内容となっている。ラスト・ナンバーの「The Man I Love」を除きすべて古谷のオリジナル。ベースとドラムのスリリングなイントロに導かれて登場する、憂いを帯びた切ないメロディの「True Changes」。まさにオープナーに相応しい1曲だ。抑え気味の出だしからクライマックスへ一気に駆け上がる古谷のピアノ、そしてピークの瞬間フェードアウトへ。ん?フェードアウト?と思う間もなく2管によるテーマが炸裂する「Marginal Mind」へなだれ込む。見事な展開に完全にしてやられた。
アルバム・タイトルと関連してアルバムのキーとなる曲であろう「Home」。家族、家庭、故郷などへの想いが込められた切ないメロディをトランペットとテナーが歌い上げる。讃美歌の一節をもじった「Mother, Son, and the Holy Ghost」も母なる女性や子供たちへの想いをピアノでドラマチックに歌い上げる。これらは勝手に僕がイメージしたことであって、本当の意味は古谷自身の曲解説にあるだろう。もしかしたら全然違う意味かもしれないが、それでいいのである。曲から受けるイメージで想像を膨らませるのがインスト・ミュージックの醍醐味であり、10人いれば10通りの解釈がありえる。古谷の曲とピアノはリスナーの数だけストーリーを生み出す魅力に溢れている。アドリブの素材のような素っ気ない断片のようなものではなく、メロディだけで多くを表現しうる美しい旋律の数々。ラストにしっとりと奏でられるスタンダードの「The Man I Love」でさえも完全に古谷ワールドになっており、見事な余韻をもってアルバムを締めくくっている。
フロント二人も簡単に紹介しておこう。トランペットの黒田卓也は現在ニューヨーク在住で、力強いトーンと柔らかな表現力を併せ持つ新鋭。テナーの吉本章紘はバークリー音楽大学を卒業後帰国し、東京を中心に活躍。オールドスタイルからコンテンポラリースタイルまで自在に吹きこなす若手の最注目プレイヤーだ。実はこの二人、兵庫県の甲南中学からの同級生で、17年来!の付き合いである。1学年下にはベースの中林薫平やテナーの西口明宏(2010年9月、D-Musicaよりアルバム『Tre Agrable』をリリース)がいるという甲南大当たり年であった。
古谷はスラリとした長身、シャイなイメージから想像もつかないアグレッシブなプレイを聞かせる時もあるが、そこに「これでどうだ!」的な気負いは微塵も感じられない。音楽の流れに身を任せ、行きつき、導き出されたナチュラルなプレイこそが古谷の魅力だ。揺るぎない自信と飽くなき表現欲に裏打ちされた古谷淳の自然体のプレイが、このアルバムを聞いた人に多くの物語を届けることは間違いないだろう。
2011年6月
星野利彦/音楽ライター
Design
北川正 (Kitagawa Design Office)