「 Metropolitan Oasis / Bungalow 」
山本昌広(as,ss), 佐藤浩一(p), 池尻洋史(b), 大村亘(ds)
「 このサウンドは美しいモザイクの海のようだ Nardis 小峯武彦 」
DMCD-17 税抜2381円+税
試聴音源
1. Metropolitan Oasis♪
2. Between♪
3. Underpass♪
4. March To Layla♪
5. Human Lost♪
6. Little Trip♪
7. Batristurgisism♪
8. O.P.P.M.♪
9. Suzumushi’s Confession♪
10. North Head♪
11. Return♪
Track 1 & 4 are composed by Bungalow
Track 2 & 6 are composed by Masahiro Yamamoto
Track 3, 5, 7, 9 & 11 are composed by Koichi Sato
Track 8 & 10 are composed by Ko Omura
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ライナーノーツ
バンガローから見える風景
素敵なバンドが誕生した。池尻洋史(b)、大村亘(ds)を擁する佐藤浩一トリオと、山本昌広(as,ss)とで結成されたBungalowだ。音の重なりに自由な気分が横溢し、それぞれがもつ歌心が、大きくうねる。こんな音楽は聴いたことがない。そんな感想をもたれる聴き手も多いのではないだろうか。
そもそもの始まりは2006年頃のこと。当時ボストンに住んでいた佐藤浩一(p)は、「日本人の凄いサックス奏者がいる」という噂を幾度となく耳にしていた。そして、帰国した直後の2008年2月、ようやく噂の主、山本昌広の演奏を聴いたのだ。その出逢いを、佐藤は次のように述懐した。
「演奏を聴いた途端に音楽的な一目惚れ、いえ一耳惚れをして、機会があったらぜひ共演したいと伝えたのです」
4人は、山本が再び一時帰国したときに初共演を果たし、その際に起きたシナジー(恊働作用)がまた次の機会を呼び、2009年12月、2010年9月と共演ツアーを行った。その2度目のツアーのときに、カルテットに名前をつける必要が生じた。メンバーが話し合ったのは「皆が気軽に行ける心地良い場所」「アコースティックな音」を表す名にしようということだった。こうして、カルテットは「Bungalow(バンガロー)」と命名された。
バンガローの内には人の笑顔があり、外には森やビーチが広がり、上を向けば青空が、さらには宇宙が続いている。なんとも自由な、彼ららしい「真剣な遊び心」が表明されたバンド名である。
そのBungalowの本デビュー作「Metropolitan Oasis」は、4人が経費を出し合い、2011年2月にニューヨークでレコーディングされた。その時点では発売の予定は立っていなかったが、今回、安ヵ川大樹率いるD-musica(ダイキムジカ)からリリースされることになった。
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ここで、メンバーの紹介を簡単にしておこう。
●佐藤浩一(p) 【http://koichisato.com】
1983年、神奈川県横浜市生まれ。5歳よりピアノを始め、16歳でジャズに進む決意をする。洗足音楽大学ジャズコース卒業後、バークリー音楽大学に進み、2007年ジャズ作曲科を卒業。帰国後の活躍は目覚ましく、自身のトリオによる「ユートピア」(ポニーキャニオン) で2011年メジャー・デビュー。その他にもRoutine Jazz Sextet、小林桂、安ヵ川大樹など多くのグループに在籍している。叙情性をもつピアニスト・作曲家として評価が高いが、常にまっさらな気持ちで臨む即興演奏を本作でも堪能できる。
●山本昌広(as.ss) 【http://momohiko61.exblog.jp/】
1980年、神戸生まれ。甲南中学、同高校でビッグバンドに所属。同大学終了後は、ブラッド・メルドーが学んだことでも知られるニューヨークのニュー・スクールを卒業した。山本昌広カルテット、昌トリオといった自身のグループで活動しているが、帰国後は、たいへんな勢いで多くの演奏家から声がかかっている。その理由は、本作でも聴きとることができるように、独自の音世界をもっているユニークな演奏家だからだろう。中学1年のときに買ったサックスを、今でも使い続けている。
●池尻洋史(ac.b)【http://www.hiroshiikejiri.com】
1979年、千葉県出身。中学、高校と吹奏楽部に所属し、千葉大学でモダン・ジャズ研究会に所属、山下弘治氏に師事しベース奏法に磨きをかけた。2007年の”横浜ジャズプロムナード・コンペティション”ではグランプリ賞を受賞。スウィングするベースが印象的で、本作でもその特徴を活かしている。
●大村亘(ds)
1981年、東京生まれ。幼少の頃からアメリカで育ち、高校生になって渡ったオーストラリアで本格的にドラムを学び始める。シドニー大学音楽院に学び、オリジナリティを何より大事にする気風のなかにあって、演奏ばかりか作曲でも高い評価を受けた。2011年6月、D-musicaから発表した「Introspect」がデビュー作【http://www.d-musica.co.jp/release/12.html】。石田衛トリオ、pingo、鈴木良雄generation gapに所属し、内外の多くのミュージシャンから共演を求められる逸材だ。
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ところで、このバンドにはリーダーはいない。そこで、各人にとってBungalowがどんな意味をもっているのかを聞いてみた。
「時代の流行、人の評価とは無関係の、ほんとうに良い音楽を追求できるバンドだと思っています」(佐藤浩一)
「ぼくが関わっているプロジェクトのなかでも、個性的で挑戦しているグループです」(池尻洋史)
「ホームですね。それぞれのメンバーが、いろいろな方向性をもって音楽活動を展開していますが、そこで得た成果を持ち帰ってきて一緒に演奏する。ですから、これからも果敢に、さまざまに試していきたいし、グループとしても流動的に変化していけたらいいと考えています」 (大村亘)
「4人で演奏すると、その度に楽しい。だから、バンドにするしかないと組んだバンドです。素直でいられる場所。音楽のなかで会話ができるんです。他の3人は佐藤浩一トリオでも活動していますから、ぼくが乗っかることでBungalowになる。それが嬉しいし、ジャズでは4と3で大きく異なるから楽しいじゃないですか。Bungalowは、皆がやりたいことをやるんですが、同じ方向を向いている。それが特徴だと思います」 (山本昌広)
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佐藤によると、本作のコンセプトは「全体を通して、都会のオアシスに入り込み、さまざまな体験をしてまた戻ってくる、といったストーリーをイメージしています」とのこと。オリジナル曲もしくは即興演奏で占められている。以下に簡単に触れるが、オリジナルについては各作曲者にコメントをもらった。
●M1 Metropolitan Oasis
即興演奏による、広い音楽空間を感じさせる静やかな曲でアルバムが幕を開ける。
●M2 Between
「作曲した時期が忙しく、アメリカ、スペイン、韓国と飛び回っていたので、その『間』にあるものを曲にしてみました。きっと何もないのですが….」(山本)
山本の独特な音色、ロングトーンの美しさがたゆたう曲だ。
●M3 Underpass
「バークリー時代、強く印象に残っているのがイスラエルから来ていたミュージシャンの音楽で、自国の音楽とジャズをうまく融合させた演奏をしていました。その印象を偶然カーラジオから流れてきた音楽に触発されて思い出し、書いた曲です」(佐藤)
●M4 March to Layla
即興によるこの曲には、4人が好きな姫路にあるクラブ”Layla”に向かうときの気分があるという。通常のマーチとは、趣きを異にする。
●M5 Human Lost
「太宰治の『人間失格』からインスパイアされました。正気を失い、人格を失われ、細胞が分裂するようなイメージで書きました」 (佐藤)
●M6 Little Trip
「日常でも旅はできる。小さな冒険はできる」(山本)
池尻のスウィング感たっぷりに音楽を支えるベース、大村の工夫を凝らしつつ音楽の全体像を拡大するドラムスもすばらしい。
●M7 Batristurgisism
「デビュー作にも収録した曲ですが、J.S.Bach、L.Tristano、Mark Turner、E.Gismontiという4人の作曲家・演奏家のアイデアを組み合わせたような曲です。今回はBungalowヴァージョンということで、刻々とテンポが変わる、より自由で実験的なアプローチで臨みました」(佐藤)
●M8 O.P.P.M.
「G.I.グルジエフが書いた『ベルゼバブの孫への話』にある、矛盾だらけの人間の道徳観ということばの略です。漠然とした心境を表現できたかと思います」(大村)
●M9 Suzumushi’s Confession
「まだタイトルがついていないときに、あるジャズ・クラブで演奏し、そこのマスターがつけてくれた曲名が『鈴虫の懺悔』でした。そのときは笑って受け流しましたが、ピッタリだという気がして、そのまま名付けました」(佐藤)
●M10 North Head
「ノースヘッドとは、シドニー郊外にある巨大な断崖が続く名勝です。自分のデビュー作でもレコーディングしましたが、ホーンが入るとアクティヴィティが増し、海の動物がでてきそうな雰囲気もあります」(大村)
●M11 Return
「物事は、いずれまた最初の場所に戻ってくる。そんな曲です」 (佐藤)
Bungalowのメンバーは、全員がジャズのフィールドで活躍しているが、ここでは、さまざまな音楽的要素をコラージュしたような曲からフリーまでと、非常に幅広い音楽性がさりげなく差しだされている。そこに気負いはない。楽曲には哲学や文学や自然が内包されてはいるが、難解さもない。ただ「音楽の楽しさ」を体感し、それを伝えようとするピュアな4つの魂があるばかりだ。
こうした彼らのスピリットに鼓舞され、フレッシュな感動が呼び起こされる。ちょっと遊ぼうと誘われて入ったバンガローだったが、曲のDNAに哲学や文学、自然を内包する楽曲群に、細胞まで洗われて、生まれ直したような気分を与えてくれる。そんな歓びを与えてくれる、Bungalowのデビュー作である。
2011年10月記
中川ヨウ / Yo Nakagawa
Design
北川正 (Kitagawa Design Office)