「 Voyage / 安ヵ川大樹 」
安ヵ川大樹(b) 楽器:カザリーニ1924年イタリア製
名器Fausto Casaliniと奏でる、永遠の歌。
日本を代表するベーシストであり、D-musicaレーベル代表を務める安ヵ川大樹、 8年ぶり待望の完全ベースソロ作!! 真夜中のスタジオの空気を震わせた、名器カザリーニの「歌」を驚異の音質で捉えた本作、 同時リリースのトリオ作「Trios」と合わせて完成する安ヵ川大樹の音楽世界!!
DMCD-09 税抜2381円+税
試聴音源
1 . Nuovo Cinema Paradiso♪
2 . Solar♪
3 . Voyage♪
4 . I Can’t Get Started♪
5 . Improvisation♪
6 . Bye Bye Blackbird♪
7 . In A Sentimental Mood♪
8 . All Blues♪
9 . Body & Soul♪
10 . Someday My Prince Will Come♪
11 . Amazing Grace♪
12 . God Bless The Child♪
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ライナーノーツ
また、ライナーを頼まれてしまった。ライナーは苦手なので、そういうものとは無縁に暮らしていたいと常々思っている。しかし今回は安ヵ川氏本人から直々の依頼ということもあり、断るに断れずお引き受けしたという訳だ。ダイキムジカはディスクユニオンを介して日本全国津々浦々のレコード店に流通されており、そこのジャズ担当者であるボクを指名してきた、という意味ではない。古くからの、安ヵ川氏がプロになる前からの知り合いであるところのボクに、たまには「何か書いて欲しいな」という気持ちなんだろうと察する。
ボクが安ヵ川氏と出会ったのはもう25年くらい前だ。記憶が曖昧ではあるが、ボクがバイトしていた明大前のマイルスに毎日のように、入り浸っていた。その当時最も入り浸っていたのは、レピッシュの故上田現氏でもあったが、安っさんの記憶も鮮明だ。トランペットをやっていた源ちゃんというのがおり、その彼の紹介で明治大学ビッグ・サウンズ・ソサイェティー・オーケストラに入部したようだ。最初はトランペットを希望したが、その後ベースに転向した。確か沖縄料理店「宮古」でバイトしていたと記憶するが、昼夜問わずの猛特訓を重ね、4年時に山野のコンテストで「最優秀賞」を受賞した。その当時山野で活躍した人には、85年三村慎司(元スイングジャーナル副編集長)、86年近藤和彦、守屋純子、90年谷口英治などの名前がある。そのまま、プロとなり活動の場を広めていくのかと思いきや、彼は某大企業に就職、山梨へ引っ越した。意外だった。しかしその後、数年もしないうちに東京に舞い戻り、プロ活動を始めたのだった。そこからは、飛ぶ鳥を落とす勢いで、あっと言う間に現在に至り、日本トップクラスのジャズ・ベース・プレイヤーとして君臨している訳だ。
ボクは、このカザリーニという楽器のことは知らない。1924年イタリア製というから、察するに恐ろしく名器なんだろう。音も深い。長年の相棒である、この楽器があったからこそ、ベースだけのソロ作品を作ろうと思ったに違いない(たぶん)。しかしベース一本こっきりで一枚の作品を完成させるというのは勇気がいることだと思うが、彼の25年に及ぶキャリアと自信が、何も臆することなくこの作品を推進させる原動力になったハズだ。かつてミンガスもレイ・ブラウンもポール・チェンバースもダグ・ワトキンスも成し遂げていない。そこに挑戦することはベース奏者としての夢なのかしもれない。
しかしながら、このイタリアの名器を使用してのソロ作品の一曲目に「Nuovo Cinema Paradiso」を持ってきたのは、この作品にとって成功だ。1989年カンヌ映画祭でグランプリを受賞した名画のテーマ曲。イタリアの近代映画史に燦然と輝く名画、その音楽はエンニオ・モリコーネ。深いベースソロの世界に静かに厳かに惹きこまれてゆく。時間を選ばない。深夜であれば尚感情は高まるが、何、昼日中でも構わないさ。事実、さぞかしプールサイドが似つかわしい、夏の休日の午後、ボクはひたすらこのサウンドに陶酔しているのだから。なので、ベースソロの世界に接したことがない人が、初めてその世界の快楽を知ってしまうのがこの作品であるのだ。マイルスの「Solar」、この力強さはどうだ。4人とか5人かかりでアドリブやソロの応酬で作り上げるカルテットやクインテット演奏にも匹敵、あるいは凌駕するような様々なことを安ヵ川は行っている。ベースのことは良く知っている訳ではないが、そんな印象を受けるのだ。タイトル曲の「Voyage」は、ケニー・バロンのそれではなくて、オリジナル曲だ。全編弓弾き、アルコによる演奏だ。或る意味、ここに安ヵ川音楽のなんたるかという集大成が込められている楽曲のひとつ。バロック音楽でも聴いているような荘厳さ、垣間見える美しいメロディー、素晴らしいじゃないか。
全曲を何度も繰り返し聴いた後、霧消に「ニュー・シネマ・パラダイス」が観たくなった。(山本隆)
雑誌レビュー
CDジャーナル 9月号のレビュー
☆2010年9月号 村井 康司氏 レビュー
安ヵ川大樹は、日本ジャズ界を代表するベーシストのひとりだ。太く、力強く、そして温かい音色、卓越したテクニック、アンサンブルをがっちりとホールドし、ドライブさせるタイム感覚。そういった安ヵ川の全貌を明らかにする2枚のCDがリリースされた。「Trios」は、そのタイトルの通り、ピアノ、ベース、ドラムスのトリオによる演奏を収録した作品。5人のピアニストと4人のドラマーが参加しているが、通して聴くと”安ヵ川ワールド”の統一性が強く印象に残った。音色やフレージングで十分な存在感を発揮しつつ、彼のベースはつねにバンド全体に奉仕しているのだ。オリジナル曲の多彩さも大きな魅力。そして「Voyage」は、ウッドベースによる完全ソロ作品。愛器カザリーニのウッディーで深い音色が圧倒的な迫力で眼前に現れ、僕は思わずアンプのヴォリュームを上げてしまった。ピチカートもアルコもじつに見事だが、テクニックのひけらかしではなく”歌”が感じられるところがすばらしい。
ジャズライフ 9月号のレビュー
☆2010年9月号 早田 和音氏 レビュー
安ヵ川の情感豊かな音楽が広がる完全ベース・ソロ作 その楽器自体が小さなオーケストラであるという比喩が可能なピアノを別格とすれば、ソロアルバムはとても稀有な存在だ。それはソロ演奏という技術面での困難さもさることながら、その演奏者自身の中に、ソロという形態でしか表現することのできない音楽的主張がなければ成し得ない作品であるから。そして何よりその音自体にソロとしての魅力がなければ成立しないものだからだ。そして本作がソロ・アルバム2作目となる安ヵ川は、それを成し得る数少ないベーシストのひとり。太く伸びやかなタッチと粘っこいまでの強靭なスウィング感。そして様々な音楽活動によって培われた豊かな音楽性。それらが相まって極上のソロ作品を築き上げている。絶妙のアルコが名器カザリーニから低音部の豊かな響きと高音部の澄み切った音色を紡ぎ出す③⑦、スウィンギーな色合いから序々にブルージーな色彩へと変化していく⑥、低音部と高音部を用いてのコール&レスポンス的妙味を見せる④など、ヴァリエーションに富んだ内容。中でも深い感銘を与えるのがオリジナルの⑤だ。ニュアンスに富んだピチカットが、フラメンコに通ずる情念豊かな世界を描き出す。アルコの朗々たる響きからピチカットの繊細な囁き音までを克明に捉えた録音も見事。安ヵ川の生音をしっかりと再現し、聴く者に至福の時を与えてくれる。
Design
北川正 (Kitagawa Design Office)