「Heart’s Calling」 Mamiko Taira
member
平 麻美子 – vocal 古谷 淳 – piano 安ヵ川 大樹 – bass
柴田 亮 – drums 広瀬 未来 – trumpet (3, 6, 7, 9)
吉本 章紘 – sax & flute (2, 3, 7, 9)
上杉 優 – trombone (3, 7, 9)
DNCD-07 税抜2500円+税
試聴音源
1 Skylark (6:09) ♪ Hoagy Carmichael & Johnny Mercer
2 Everytime We Say Goodbye (2:50) ♪ Cole Porter
~ I’m Glad There Is You (7:09)♪ aul Madeira & Jimmy Dorsey
3 Detour Ahead (5:53)♪ Lou Carter, Herb Ellis & John Frigo
4 Sometime Ago (4:52) ♪ Sergio Mihanovich
5 You Turned The Tables On Me (4:27)♪
Louis Alter & Sydney Mitchell
6 Ain’t No Use (4:32)♪ Leroy Kirkland & Sydney Wyche
7 Suddenly It’s Spring (4:40)♪
Jimmy Van Heusen & Johnny Burke
8 A Timeless Place (aka The Peacocks; 11:26)♪
Jimmy Rowles & Norma Winston
9 Falling In Love With Love (3:26) ♪
Richard Rodgers & Lorenz Hart
~ Sketch (1:16) Miki Hirose & Mamiko Taira
10 Akai Fuusen (5:53)♪ Kyohei Tsutsumi & Kazumi Yasui
Total Time: 62:36
購入サイト
ライナーノーツ 平麻美子
ワタシの心強い音楽のパートナーの面々、ピアノ・古谷淳さん、ベース・安ヵ川大樹さん、 ドラム・柴田亮さんとのグループの活動は5年目に入ります。一時帰国の折に演奏を重ねてき たわけですが、継続から生まれる力というのは、その場限りのセッションで生まれる瞬発的な 力とは明らかに種が違います。長所、短所、それぞれ抱えた上で、バンド全体が成長し続けて いると実感できることは至福以外の何物でもなく、自分のミュージシャンとしてのセルフエス ティームを支えるものでもあります。
今回は自身のチャレンジとして、何よりも感情を最優先にしよう考えました。リズムセクショ ンのメンバー、そしてアレンジを担当してくれた広瀬未来くんには、恐らく日々のセッション ではあまり説明を受けないであろう歌の意味であったり、音楽的というよりは極めて抽象的な 表現や例を挙げて、自分が何を見ているのか、何を欲しているのかを説明しながら準備を進め ていきました。ある種、そういった準備というのは面倒な部分でもあり且つコミュニケーショ ンを計る過程で省かれがちなものですが、そういった部分も受け入れることができる彼らのキャ パシティーが、アルバムを創る上での不可欠な要素だったと思います。前作にも参加してくれ た未来くんは、アレンジャーとしての才能を余すところ無く発揮してくれ、サックス/フルー トの吉本章紘さん、トロンボーンの上杉優さんも加わり、とても賑やかな録音になりました。
アルバムのタイトル、Heart’s Calling。「心から求めるもの」とでも申しましょうか。ワタシ は日本のジャズが好きですし、日本人の持っている音やその感性、そして可能性に惹かれます。 もしも今作がその面白みを少しでも伝えられたらいいなと思います。
Skylark
ホーギー・カーマイケルとジョニー・マーサーのこの曲は、カーマイケルがビックス・バイダーベックのソロ・フレーズを基にして書いたとされる、曲先行の作品です。マーサーによって歌詞が後付けされましたが、彼はジュディ・ガーランドとの大恋愛の渦中にあり、彼女への募る思いを歌詞にしたとされています。アレンジのアイディアは、そんな恋い焦がれ、気持ちがどんどん高まる感覚と、歌の主人公から見たヒバリ(Skylark)だけでなく、ヒバリそのものの存在を示す感覚が欲しいなと思い、アルペジオのモチーフに辿り着きました。そこを出発点に、メンバーに夫々のパートを仕上げてもらいました。この曲は、このバンドで録音をしておいた方がいいかもしれないと考える切っ掛けになった作品です。
Everytime We Say Goodbye ~ I’m Glad There Is You
コール・ポーターのEverytime We Say Goodbyeは、今回は歌ってはいませんが、ヴァースのある曲です。ヴァースでは、仲の良い二人が痴話喧嘩で一日を締めくくり、主人公が喧嘩したことを後悔しながらも、いつも一緒にいられたらいいのにと願い、続くコーラス部分では、君への気持ちがとても大切で、いっしょに居る時は春のよう、でも離れるとこんなにも辛い、とうたいます。I’m Glad There Is Youは、ジミー・ドーシーと彼のオーケストラのピアニストであったポール・マデイラによって書かれました。この世の中には色々な人がいるけれど、君に出会えてよかった、これからは君と一緒に歩んでいこうと唄う、二人のこれからを彷彿させる歌詞と、大らかで広がりのある旋律が美しい曲です。このメドレーでは、Everytime We Say GoodbyeをI’m Glad There Is Youへのヴァースと見立てて演奏してみました。
Detour Ahead
ドーシー・オーケストラ繋がりのルー・カーター、ハーブ・エリス、ジョン・フリーゴがトリオで活動していた際に共作されたバラードで、恋愛をロードトリップに例えたもの。実は、アルバムの制作に取り掛かる前から、管を入れたアレンジでこの曲で録音したいと未来くんにお願いしていました。元々この歌自体の持つ風景が、管が入ることでより立体的に感じられ、バンド全体の空気感と柔らかい丸みのある質感が光る作品に仕上がりました。
Sometime Ago
ブエノスアイレス出身の作曲家、セルジオ・ミハノビッチの曲。恋愛の始まりのこそばゆい部分、惹かれていない素振りを見せて自分の砦を守っているのも関わらず、どんどん相手に惹かれてゆき、やがて自らの意思で相手に向き合っていく、そんな心模様を描く歌です。アルバムを作りかけてボツにした話を以前どこかで書いたように記憶していますが、その録音に、この曲と8曲目にあるSuddenly It’s Springが入っていました。5拍子のアレンジは当時のままですが、このバンドとしてのエンディングが新たに加わり、ほんの少しアップデートされています。
You Turned The Tables On Me
ルイス・オルターとシドニー・ミッチェルによって書かれた1930年代半ばのミュージカル映画、Sing, Baby, Singの挿入歌。ジャズミュージシャンによってカバーされ続け、後々スタンダードとして浸透していきました。大学時代のクラスの発表会向けにこの歌を割り当てられたことがありましたが、実際にはこの曲は歌わずじまい。なぜ却下されたのか知る由もないですが、自分では気に入ってライブで歌い続けています。今回のアルバムの中では唯一のスイング・ナンバー。小気味よいテンポで仕上がっています。
Ain’t No Use
リーロイ・カークランド、シドニー・ワイシュの曲で、ブルース・シンガーのビッグ・メイベルによって歌われ、後にジャズ・ボーカリストに歌い継がれている曲。大学時代の先輩がこの曲を歌っているのを聴いて、いつか歌いたいと思っていました。恋人と別れを決意し、淡々と別れの理由を相手に伝えていくトーチソングのニュアンスから、プツンと何かが切れて悲しみが溢れ出すブルースへと展開していく、気持ちの流れをお楽しみ頂けたら嬉しいです。
Suddenly It’s Spring
1944年の映画、Lady In The Darkから生まれた、ジミー・ヴァン・ヒューゼン、ジョニー・バークの楽曲。音楽を続けていますと様々な出会いがあります。その中の一人、ピアニストのジョシュア・ウルフが一昨年の春に癌で亡くなりました。40を迎える手前でした。彼の歌への造詣の深さは尊敬に値するもので、沢山のことを彼から学びました。歌を理解しているピアニストとしては、後にも先にも彼を抜く人には出会わないのではないかと思う程です。先に触れた、ボツになった録音でピアノを演奏しているのが彼で、この曲は彼の薦めでした。ジョシュへの感謝の気持ちと追悼の意を込めて。In Memory of Joshua Wolf (1973-2013)
A Timeless Place (a.k.a. The Peacocks)
ジミー・ロウルズのThe Peacocksに、ボーカリストのノーマ・ウィンストンが歌詞を付けたもの。インストルメンタルの曲に歌詞を付けた歌は色々とありますが、詞の内容が原曲の良さを損なわないものは決して多くはないと思います。とてもチャレンジングな曲ですが、思い切って録音してみました。恋人と別れとその現実を受け入れられず、そこに留まったままの主人公、まるで時が刻まれなくなってしまったような、彼女の孤独や喪失感が描かれています。
Falling In Love With Love ~ Sketch
ロジャース&ハートのコンビによるミュージカル、The Boys From Sylacuseからの一曲。何故か、この曲とカーペンターズのFor All We Knowが同じ空気をもった曲として聴こえていました。極めて漠然としたイメージの断片とカーペンターズのトラックと共に、未来くんにアレンジを託しました。曲の最後の部分は、未来くんが温めていた管のフレーズをモチーフに、ワタシがスケッチ的にメロディーを展開、そこに言葉を載せてみたものです。将来的に何かに発展 するかも?
Akai Fuusen
筒美京平、安井かずみが1973年に女優の浅田美代子のために書き下ろした曲。日本の70年代はフォークソングが主流の時代でした。今は子供のコーラスの本などにフォークソングの代表曲として名前を連ねています。心からいい曲だなと思えるメロディーと、想像力をかき立てられる歌詞が大好きです。ワタシの中では、一曲目のSkylarkと、この赤い風船は同じ世界観に在ります。
Design
北川正 (Kitagawa Design Office)