プロフィール
土井 徳浩(Clarinet, Alto, Tenor Sax)
中高吹奏楽部で故 浜田伸明氏にクラリネットの手ほどきを受ける。
高校卒業後、YAMAHA音楽院にてクラシックのクラリネットを故 内山 洋、 サックスを原ひとみ、ジャズ・サックスを吉永 寿の各氏に師事。 1997年、奨学金を得てボストンのバークリー音楽大学に留学。 クラリネットをHarry Skoler, サックスをGeorge Garzone, Frank Tiberiの各氏に師事。
2002年帰国。
2003年ノナカ・サクソフォン・コンクールに於いてジャズ部門第二位を受賞。
2006〜8年,季刊紙「ノナカ・サクソフォン・フレンズ」にジャズ講座を連載。
2005年よりモダン・ジャズ・クラリネット奏者としての活動を中心にし、 首都圏を主に、 自己のカルテットを率いて活動中。
2011年10/12,初リーダー作「Amalthea/土井徳浩カルテット」をD-Musicaよりリリース。
サイドメンとしては、「佐藤浩一Group」 「Grupo Cadencia」 「新澤健一郎Ginkgo Quintet」 「太田朱美Risk Factor」 「酒井俊 Water Pocket」 「シニフィアン・シニフィエ」 sax奏者としては「佐藤恭子Little Orchestra」「TokyoBrass Art Orchestra」「山田拓児Folklore」「Daikimusica Large Ensamble」 等あらゆるジャンルのバンドや、 渋谷毅、さがゆき、西山瞳、伊藤志宏、助川太郎、浜村昌子、中村真、各氏とのユニットなどに参加している。 帝国劇場、宝塚歌劇団等におけるミュージカルではオーケストラにマルチリード奏者として参加。
監修著書に「アルトサックス ファーストステージ」「テナーサックス ファーストステージ」(全音楽譜出版社)
ライナーノーツ
<クラリネットの新生面を開く魅力的作品集>
瀬川昌久
数あるクラリネット奏者の中で、スウイング・ジャズを軽快に吹きこなす上に、モダン・ジャズ曲をモダンなコンセプトで表現できる稀有な存在として定評ある土井徳浩が、新作アルバムを発表した。2011年の前作「AMALTHEA」が全8曲土井自身のオリジナル作で占められたが、今回は9曲中、7曲が自作になっている。前回は全曲クラリネットを吹いていたが、今回は曲によってバス・クラリネットも吹いている。通常のクラリネット奏者と違って土井が既成のスタンダード曲によらずに、自身のオリジナル曲を通じて音楽を語りたい、と考えている意図は規定の伝統的なクラリネットの音色やフレージングを脱して、新しい自分固有のモードを創出したい、と考えているからだと思う。こういう努力は、勿論ジャズ界の凡ゆる器楽奏者にいえることだが、クラリネットの場合特にその傾向が強い。それはクラリネット奏法の歴史的な展開において1930~40年代のスウイング・ジャズ全盛時代に、クラリネットは花形楽器であり、多くの卓越した奏者を生み出し、特にベニー・グッドマンとアーティ・ショウという完璧な技術力を有する2人のアーティストが多数の名演を残したという史実に由来する。彼等は多くのスタンダード歌曲をスウイング・スタイルで演奏し完璧にインプロヴァイズした。ジャズの素材であるスタンダード歌曲の即興法について、スウイング・スタイルに関する限り殆ど完成の域に達したと言って良い。そして1945年頃からチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーが出現してビーバップスタイルの即興法を持ち込んだ際、管楽器やリズム楽器が一斉にビーバップ奏法を摂取して新しいサウンドに即応したが、クラリネットだけは大きな困難に直面した。それは楽器の性質上音色やフレージングの面でビーバップに即応することが技術上難しかったからだ。例えばベニー・グッドマンは、スウェーデン出身の若い天才的なクラリネット奏者スタン・ハッセルガードがビバップ奏法を身につけているのを見て、1947年に自己のコンボに採用して、彼とIndianaを共演しながら、パーカーのDonna Leeに転換したり、ウォーデル・グレイ(ts)をコンボに入れて、バップ・フレーズを共演したり、自己のビッグバンドのレパートリーをバップスタイルに改変したりした。しかしクリティックから「ベニーのソロだけはバップになっていない」と酷評されて憤慨し、50年代にはまた元のスウイング・スタイルに戻ってしまった。50年代になるとクラリネット若手バディ・デフランコがスタン・ゲッツのようなクール・スタイルの吹き方を始め、トニー・スコットは強烈な情熱的トーンのブルース奏法を開拓した。以降多くの奏者がモダン・ジャズのサウンドにクラリネットで挑戦する試みを続けているが、モダン・クラリネティストとして大を成したのは、エディ・ダニエルズ(Eddie Daniels)で、音色・フレージング共にモダンでスムースな独自性をもち、グッドマンやパーカーの曲をモダンにプレイして高い評価を得た。土井も早くからダニエルズを研究し、その特色を採り入れている。もう一人土井が注目しているのは、フランスで活躍するルイ・スクラヴィス(Louis Sclavis)で、1953年リオンの生まれ、現代音楽からジャズまで幅広く、自己のコンボでデューク・エリントンに捧げる「Ellington On The Air」というECMアルバムを出しており、自己の作品も沢山録音している。バス・クラリネットについては、エリック・ドルフィーが極めて効果的に過激なサウンドを吹いてから注目され、アンソニー・ブラクストンがフリー・ジャズ的に演奏して有名になった。土井もモダン・ジャズ曲を吹く時、バスクラリネットを使用している。土井が自作の2枚のアルバムで指向するところは、このような先人たちの多様な表現法を参考にしながら現代に通ずる自己のクラリネット奏法を自作のオリジナル曲のサウンドの中に確立することであろう。
彼自身の奏法について次のように語っている。
「コンテンポラリーなジャズをクラリネットで演奏する、という事を念頭に置いた時に、密度が高く響きのある音で、繊細なニュアンスも思いのままにつけられる、という状態が理想でした。学生の頃についたクラシックの先生、内山洋 師の教えは、その理想の具現化に決定的な助けとなりました。」
<土井徳浩の音楽歴>
中高校吹奏楽部で、故浜田伸明氏にクラリネットの手ほどきを受け、高校卒業後、ヤマハ音楽院でクラシックのクラリネットを故内山洋、サックスを原ひとみ、ジャズ・サックスを吉永寿各氏に師事。1990年奨学金を得てバークリー音楽大学に留学し、クラリネットをHarry Skoler、サックスをGeorge Garzone、Frank Tiberiに師事。
2002年帰国、03年ノナカ・サクソフォン・コンクールのジャズ部門第2位。06~08年のノナカ季刊紙にジャズ講座を連載。05年よりジャズ・クラリネット奏者としての活動を中心とし自己のカルテットで活躍中である。D-musicaリリースの自己アルバムの他に2015年、行川さをり(vo)、伊藤志宏(p)、土井徳浩(cl)からなる共同リーダーユニット"Phacoscape"のデビュー作をリリース。サイドメンとして多くのグループに参加する他、大編成のバンドにサックス奏者として参加。ミュージカル劇のバンドにもマルチリード奏者として参加する。サックスの教則本の監修もつとめる。
最近のライブでは、片倉真由子のピアノトリオに参加して、セロニアス・モンクの名曲を特集してクラリネットとバス・クラリネットを吹いたのが印象に残った。
<演奏曲目について>
収録9曲については土井自身の解説を是非読んでいただきたいが、4,6曲以外の7曲が彼のオリジナルで夫々多彩な内容でバラエティに富んでいる。1曲目は短いが音色とメロディーがとても新鮮に響く序曲。2曲目は非常にコンテンポラリーな曲想で一貫する。3曲目はアップテンポの細かいフレーズが何回も反復され、スウイングする箇所もある。4曲目は有名なチャップリンの名曲をスローに土井カラーで奏する。5曲目はクラリネットとピアノとの対位的展開が興味深い。6曲目は子供向きのメロディを変奏するクラリネットとピアノのソロが見事だ。7曲目は殆どノ―リズムの練習曲のようで、いろいろの技巧と音色が即興する現代音楽風だ。8曲目は賑やかなドラマ展開が面白い。9曲目のリズムパターンとメロディのアイリッシュ的な盛り上がりが魅力的な曲だ。
土井をサポートする佐藤浩一(p)、本川悠平(b)、柴田 亮(ds)トリオの息の合った絡み合いと交流の見事さが曲の良さを増幅して、いずれも高度の音楽性を発揮する。
2016.3.13記
瀬川昌久
Design
北川 正 (Kitagawa Design Office) http://kitagawadesignoffice.blogspot.jp/
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